さて、ベースの音を殺さないように手数を抑えているエルビンだが、それによって、はからずもこのドラマーの優れた一面があぶり出された。エルビンのドラムは音はでかいが、もともとリズムが羽根のように軽いのである。音が軽くてリズムが重たいのがマックス・ローチで、音が重くてリズムが軽いのがエルビンのドラムと言えばわかるだろうか。エルビンのシンバル・レガートやブラシは、高圧電線のように頭の上を飛んでいく。ロールス・ロイスの乗り心地というか、バネを仕込んだ空飛ぶじゅうたんというか、クッションの効き方が違うのである。この "Something for Lester" では、その特徴がよく出ている。フュージョン・ブームのさなかに発表されたものとは思えない風格だ。繰り返し聴くほどに味わいが深まる。
いつになくシダーが硬い。巨匠に挟まれて萎縮したか?そんなレイもいつもの凄みが感じられない。エルヴィンはここでは職人芸に徹していて、その味わいを楽しむには悪く無い。ただ、これだけのメンバーならもっとsomething を期待しても当然だと思う。この印象はもしかすると面白みに欠ける平板な録音のせいかもしれない。
レイ・ブラウン(Ray Brown、1926年10月13日〜2002年7月2日)、アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれのベース奏者、スウィング期からビバップ期に活躍、世界中の人から愛されたベーシストの巨人。アルバムは1977年録音のコンテンポラリー盤でタイトルの「Something for Lester」は「Lester Young」ではなくコンテンポラリーの代表の「Lester Koenig」氏の事。普通、リーダーがベーシストのアルバムは本人の長いソロで飽きてしまうが、シダー・ウォルトンのピアノが前面に出ている、ドラムのエルビン・ジョーンズもサポートに徹して控えめながら円熟のリズムを刻む。そのため全体に調和がとれた極上のピアノトリオが収録されている。邦人ジャズ・ミュージシャンも良くこのアルバムの曲を演奏するほど人気がある、繰り返し聴いても、まったく飽きのこない名盤である。 |