音がスムースで柔らかいので、一聴軽く吹いているように聞こえるが、デスモンドのようにある意味メリハリのないラインと音でアルト・サックスを吹き続けることは技術的、身体的には大変らしい。彼はヘビー・スモーカーでもあったらしく1977年に52歳で肺がんで亡くなった。“黒いオルフェ” のテーマなどボサノヴァの名曲のカバーも勿論素晴らしいが、私は ”Alone Together”や ”Nancy” などのスタンダード・ナンバーの密やかな味わいが好きだ。 "Nancy” はコルトレーンの「Ballads」での演奏と聴き比べるのも一興だ。ジャズにおける曲とその解釈・演奏の違いがわかって楽しい。
ジャズの「名盤」てなんだろう。評論家がほめるのが名盤なのか。ポール・デスモンドほど評論家の間で評価の低いサックス・プレーヤーはいない。イージーリスニングとかムード音楽とか悪評サクサク。しかし聴きもしない「名盤」を揃えるのだったらこの一枚を。「黒いオフフェ」、ジム・ホールの澄み切ったギターに抑制のきいたデスモンドのサックスがかぶる。恋人や奥様が「ジャズなんてうるさくていやだ。」なんて言うのだったら、この一枚を聴かせてあげて欲しい。あなたとパートナーの距離が縮まるにちがいない。「しょっちゅう聴いて、一生手放さない」のが名盤の条件だとすれば、これは間違いなく「名盤」です。 |