マイルス・デイビスが賞賛したピアニストとして名高いジャマルの演奏は、随所に素晴らしいテクニックを聴かせてくれるものの、決して技術に走らずあくまでグループ全体の音を重視している。このピアノトリオアルバムも例外ではなく、オスカー・ピーターソンのよう弾きまくる演奏とは対照的に(もちろんピーターソンを批判するわけではなく彼の演奏も素晴らしいが)、あくまでトリオとしての演奏、表現にこだわったものだ。1958年にこのような演奏形態は他のアーティストの作品にはあまり見られず、当時としては斬新だったと思われる。マイルスは姉のドロシーにこのピアニストについて知らされ、ノックアウトされたと評している。軽やかなタッチや選曲などに惚れ惚れしたようだ。
楽曲への意識が特に表れているのがAhmad's Bluesで、ブルースと銘打っておきながら早くも12小節を無視している。ビバップでは余り聴かれなかった選曲も多い。ジャズピアノファンなら一度は聴いておきたいアルバム。
アーマッド・ジャマルといえば、シカゴでのライブ録音「At the Pershing」が有名です。そちらも勿論素晴らしいですが、同時期・同メンバーでのワシントンDCでのライブ録音である当盤は、「At the Pershing」に知名度では劣りますが、その内容は勝るとも劣りません。録音・雰囲気が本当に素晴らしく、50年代末のジャズ・クラブにタイム・スリップしたような感覚を味わえます。 |