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  Consecration Volume 1

現代でもなお,立派に「エヴァンス派」の枕詞が通用するほどの大物,ビル・エヴァンスが世を去ったのは,1980年9月15日のことです。しかし,生粋のピアノ馬鹿だったエヴァンスは,肝硬変でボロボロになりながらも治療を完全に拒否。制止を振り切ってピアノの前に座り,死の5日前まで弾き続けたといいます。この録音はその壮絶な最期を刻印したライヴ録音で,彼がとうとう病院へかつぎ込まれる9月10日の3日前まで演奏していた,サンフランシスコのジャズ・クラブ『キーストーン・コーナー』で録られたもの。ライヴと言うこともあり,脇役はやや上滑り気味ですし,既に病でボロボロなエヴァンスの指は,もはや速いパッセージを捉えきれないのですが,そういう細かい難点を遙かに超えて,まさに鬼気!迫るという言葉が相応しい,何かに憑かれたような演奏に鳥肌が立ちます。ちなみにこの録音,「ザ・ラスト(最期)」と言いながら,その後何度も未発表音源やハイビットのエサを付けては再発され,版元の姑息な商売を象徴するような一枚になりました。しかし,それもこれも,やはり内容が素晴らしいからこそです。安く見かけたならどの編集盤で聴いても損はないでしょう。

 

1 You and the Night and the Music
2 Emily
3 The Two Lonely People
4 I Do It for Your love
5 Re: Person I Knew
6 Polka Dots and Moonbeams
7 Knit For Mary F
8 Someday My Prince Will Come

Bill Evans (piano)
Joe La Barbera(Drums)
Marc Johnson(Bass)

 

Recorded 1980.08

このアルバムの素晴らしさを語るのに物語性をことさら強調する必要はないと思う。録音のタイミングは亡くなる直前だけれども、エヴァンスの残した演奏として、ただ、素晴らしいという言葉しか見当たらない。もし、一瞬でもビル・エヴァンスの音楽に心奪われた方であれば、購入しない選択はないだろう。サンフランシスコ市、キーストンコーナーにおいて、当時、当人たちも知らない間に行われた録音は、エヴァンストリオ最後期の到達点の高さ(深さ)を示す作品となっている。
アルバムの構成的にはConsecration II に一歩譲る点は否定できないが、このConsecration I においては冒頭の「You and the night and the music」がすべてを圧倒すると言っても過言ではない。迫真性と臨場感をもって最初の一音からエヴァンスの演奏が何の迷いもなく進行し、その緊張感はエンディングに至るまで小動(こゆるぎ)もしない。また、自身のソロパートは言うまでもなく、ベースソロに移ってもバッキングに熱い感情が乗り移っていることを聴き手は肌で感じることだろう。マーク・ジョンソンとジョー・ラバーバラの演奏も素晴らしい。突っ走るエヴァンスの演奏を確実に支え、ソロパートにおいても流れを受け継ぎ流麗にまとめるベース、シンバルとスネアを駆使して演奏に刺激を与え続けるラバーバラのドラムス、表現は全く違っても、エヴァンスをして「ファーストトリオに匹敵する」と言わしめたトリオの本領が発揮されている。

近年、エヴァンスの晩年を、近親者の死とからめ、緩慢な自殺と自己崩壊の歩みと見るような説があるが、私はそれに与(くみ)しない。逆に、最晩年のエヴァンスに私が見るのは、個人として肉体的にも精神的にも矛盾を抱えつつも、自分の音楽に対してだけは最後までまっすぐに向き合ったピアニストの姿そのものだ。そもそも、作為性など微塵も感じさせない熱い気持ちの昂ぶりと深い叙情性溢れる演奏を最後まで維持し続けたピアニストに対して自殺願望云々は失礼だろう。死期が近づいていることは知っていたかもしれない。だが、自らの死が近づいても、自己の音楽表現の高みを目指す姿をそこに見ることは出来ないのだろうか。私には、とりわけConsecration において、エヴァンスの創造と人生が交錯する瞬間が見える気がしてならない。
ビレッジバンガードにおけるファーストトリオの録音が、エヴァンス・トリオの素晴らしさを最良の状態で捉えた奇跡とするならば、キーストンコーナーにおけるラストトリオの録音は、エヴァンスの最後の到達点を見せてくれるもう一つの奇跡だろう。その最終演奏の幕開けとして、「You and the night and the music」は何よりもふさわしい。キーストンコーナーでの公演において、一度きりしか演奏されなかったこの曲が、エヴァンスの音楽に対する情熱を雄弁に語ってくれている。

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